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2025. 11. 26
学園長コラム【学園長コラム vol.68】「あるIT企業」
先日、あるIT企業の社長と会話を持った。
一時間以上の会話だったので、いつも以上に深く突っ込んだ話ができた。
そこから得られたヒントを皆さんにも伝えたい。
IT企業はどこも仕事は多く、人手が足りない。
だから新卒採用にも中途採用にも積極的だし、別なIT企業に仕事を一部割り振って手伝ってもらっているケースが多い。
だから「仕事はある」「人が足りない」のだが、何とか人手が調達できれば需要に応えることができ、
会社としては売り上げが伸びるらしいのだが、一方で利益がなかなか伸びないという。
それは顧客企業に提供する付加価値が大きくは伸びず、売上金額は技術者の人数に比例してしまい、
同時に体制を拡大したことによる不慣れな人たちの投入でリスクが増し、利益が圧迫されるということらしい。
つまり、IT企業が顧客企業の「こういうものを作って欲しい」に応えるわけだが、
顧客企業の要望・希望は昔に比べてどんどん明確かつ詳細になっているのだが、それを「そのとおり実現するだけ」なので、
顧客は高い金額を支払う気持ちにはなれず、また、完全にそのとおりに実現することが難しくなっているとのことだ。
実はこの背景には、世界中でIT活用がハイスピードで広まっている事実がある。
顧客企業とIT企業、あるいは顧客企業の社員と我々技術者の違いというか差がどんどん縮小していることが大きな原因であるらしい。
例えば、冷蔵庫を使うユーザーと、冷蔵庫を設計・開発する技術者の間の差は、昔に比べてむしろ大きくなっているだろう。
冷蔵庫が大好きで、各種機能に詳しく、使い方が上手なユーザーがいたとしても、この人が技術者と専門的な会話をすることは難しい。
冷蔵庫ばかりでなく、洗濯機もテレビもオーディオ機器も、自動車もビルも、
それらを使うユーザーとそれらを作る技術者の間の距離は大きくなっているはずだ、なぜなら、それらは日進月歩でどんどん複雑・高度になるからだ。
ところが、ITは少し様相が異なる。
ユーザーの中には、エクセルなどの表計算ソフトをフル活用して、小さなシステムを作ってしまう人が増えた。
インターネット上の各種サイトやサービスを活用して、
「こういうものが欲しい」
「あれとこれの中間のようなものが欲しい」
「あのサイトでできているのだから、ウチでもできるはずだ」など、ユーザーが技術者に向けて発する要望は日増しに高度かつ複雑になってきている。
そういった要望を実現するだけでは、顧客は感動しない。だから高い金額を払おうとは思わない。
つまり、業務や事業や市場や経営に詳しい顧客企業の人たちが、ITに対してもある程度詳しくなっており、自分で作れるわけではないし、
自分で作ろうとはしないけれども、言うとおりに作ってくれることを期待しており、それだけを期待するようになってしまった。
我々技術者の提案に感動して、「思うとおりにやってください」という光景を見ることが少なくなってしまった。
ユーザーが業務、事業、市場、経営に加えてITで何ができるかにも知見を持つようになってきたのだから、
我々技術者は、ITに加えて、業務や事業、市場、経営について、ユーザーと話せるように努力しなければいけないのではないだろうか。
私はこの世界に入って46年が経った。
実は、その昔から、コンピュータやネットワークに詳しいだけの技術者よりも、それに加えて、顧客企業の業務や事業に関心を持ち、
どのようなシステムを備えることが顧客にとって価値あることなのかに意見を持つ人が顧客企業から信頼、人気を獲得でき、同時に高いお金を得ることができた。
この意味では、昔と今で大違いというわけではない。
昔も今も、「いかにシステムを作るか」だけでなく、「何を作るべきか」を考えることができる技術者、考えることが好きな技術者が評価されているのだ。
みなさん、何を目指す? どんな技術者を目指す?
一緒に考えていきましょう。

<プロフィール>
東京工業大学理学部数学科卒業。
ITエンジニアとしてコンビニ、アパレル、保険、銀行、人材派遣など様々な業界のシステム開発を手がけ、現在は株式会社クレスコ社外取締役、ユーザー系企業・顧問 情報活用コンサルティング、IT系企業・顧問 事業戦略策定コンサルティングを兼務。「ダメなシステム屋にだまされるな」(2009年日系BP)など、IT関連の著書も多数。
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