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2019. 12. 02
学園長コラム【学園長コラム vol.16】バッチ処理
1979年にこの世界に入った私が最初に遭遇した専門用語の1つ。
先輩たちの会話の中に頻繁に出てくる「バッチ」の発音は異様に聞こえた。
当時の高校野球で内野手が頻繁に発した「バッチ来―い」、
つまり、「バッター、オレのところに打ってみやがれ」と同程度に、
私にとっては異様な響きを持ったものだった。
大卒の初任給が十万円だった当時に、
1台が10億円程度もする大型コンピュータは超高価で貴重なものだった。
価格に比例して処理速度が速く、人間の計算スピードとは比較にならない。
人間が電卓で計算をするとき、数字の打ち込みに10秒ぐらいかけた最後に「=」を押すと、
瞬時に計算結果が表示されるが、その電卓と桁違いの処理速度を大型コンピュータは実現していた。
あまりにも処理速度が大きいので、少数のデータをコンピュータに処理させるのは「もったいない」。
そこで、大量のデータを揃えて準備し、一気に処理させるという方式が一般的となった。
大量データの「ひとまとめ」をバッチbatchと呼び、この処理をバッチ処理batch processingと名付けた。
名付けたのはIBM社であり、1964年発表のIBM / System 360という機械が発端だ。
この機種はIBMの強さを決定づけたものであり、全方向360°あらゆる用途に応えるという意図が盛り込まれている。
バッチbatchという英単語は一般的な名詞であり、
その語源は、窯で一度に焼き上がるパンの「ひとまとめ」という意味である。
当時、大手百貨店の外商部が売り上げた1ヶ月分の伝票、数千枚をひとまとめにしてパンチ業者に出し、
コンピュータが入力できる磁気媒体に変換して1バッチとし、バッチ処理を起動させた。
1ヶ月分の伝票、数千枚を多くのパンチャーが数時間かけて磁気媒体に落とし込み、
それをコンピュータが数秒でエラーチャックとフォーマット変換をし、数秒で並べ替え、
数秒で整合性チェックをし、数秒で集計し、最後に印刷機が20分ぐらいかけて帳票を印刷する。
この百貨店のバッチ処理と同時進行で損害保険会社、アパレル会社、共済組合、書店などの
バッチ処理を実現していたので、さきほどの数秒の処理は実はどれも1秒以内に完了するぐらいの速さだった。
マシンルームでいくつものバッチ処理を失敗させたり成功させたりして夜になると、
悪い先輩、いや、いい先輩が繁華街に連れて行ってくれた。
先輩は「おまえらバッジ処理せよ」と言って、
スーツの襟についている会社の社章バッジをはずせという指示を出し、
純粋無垢な新入社員を怪しい路地に導いて行くのだった。
ITカレッジ学園長 佐藤 治夫
<プロフィール>
東京工業大学理学部数学科卒業。
ITエンジニアとしてコンビニ、アパレル、保険、銀行、人材派遣など様々な業界のシステム開発を手がけ、現在は株式会社クレスコ社外取締役、ユーザー系企業・顧問 情報活用コンサルティング、IT系企業・顧問 事業戦略策定コンサルティングを兼務。「ダメなシステム屋にだまされるな」(2009年日系BP)など、IT関連の著書も多数。
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