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2025. 10. 05
学園長コラム【学園長コラム vol.67】やらない理由
この原稿を書いている2025年の秋、国勢調査が実施されています。
各家庭のポストに投函された封筒を開けると、国勢調査の意義や提出方法についての説明書が入っており、
解答用紙とでも言うべきマークシート用紙がある。
選択肢方式の質問に対して該当する答えの部分にある小さな楕円マークを鉛筆で塗りつぶす。
集めたこの紙を入力するわけだが、手間がかかるし、機械の読み間違えもあるだろう。
そしてさらに文字を書く部分もあり、これはおそらく人間の手入力に頼るのではないか。
「ぜひ、インターネットから入力してください」とあり、そりゃそうだろう、と思う。
政府の本音は全員にネット入力して欲しいのだろうが、無理強いはできずに紙への記入も用意した。
ところが同じ日本政府が実施している選挙にはインターネット投票は用意されておらず、
みな、投票所に行って鉛筆で候補者の名前を記入する必要がある。
なぜ、選挙にはネット投票を用意しないのだろうか。その「やらない理由」は何だろうか。
実は世界中でネット選挙を実施しているのはエストニアという国ぐらいで、
先進国も途上国もみな、紙でやっている。
なぜだろう。ちょっと理由を考えてみて欲しい。
悪いヤツが高齢者の自宅を訪問して、親切そうに振舞いながら画面を操作し、悪い候補者に投票させてしまう。
もっと悪いヤツが電話をかけ、PCを操作させながら画面共有して、悪い候補者に投票させてしまう。
さらに悪いヤツは、訪問も電話も使わず、有権者になりすまして投票データを捏造し、投票してしまう。
このように不正が行われる恐れがある。
つまり、選挙をインターネット上で実施すると、悪いことが起こる。だからやらない。
世の中でやっていないこと、さらに、あなたがやっていないこと、これらには「やらない理由」があるわけだが、
その多くは「やると悪いこと、イヤなことが起こる」場合が多い。
しかし、何かをやらない理由には大きく二種類の理由があり、やると発生するマイナスが大きいというものと、
やって得られるプラスが小さいというものの二種類だ。
選挙の場合は、マイナスが大きく、プラスが小さいと判断されているわけだが、プラスがないわけではない。
投票所に行くのは面倒だけど、家からPCでできるなら投票するという人がいる可能性はあるはずだ。
私の考えだが、日本人はマイナスの発見は得意だが、プラスの発見は苦手である。
例えば、あなたは英語を勉強していますか?
高校の科目でやらざるを得ない状況にある場合、みな、英語を勉強するわけだが、
卒業するなどして「やらなくてもよい」状況になると、かなり多くの人がもう英語は見たくもないという心境になるみたいだ。
ほとんどあらゆるビジネスで、英語ができた方が可能性は大きくなるはずで、
特にITなどの分野では、世界を相手に仕事することだって夢ではなくなる。
しかし多くの人はIT用語の単語ぐらいしか英語を使わない。
だいぶ以前の話だが、私は中国の国営企業に依頼されて、
日本のセブンイレブンの情報システムを幹部諸氏に説明したことがある。
その国営企業は薬品会社であり、ドラッグストア・チェーンの展開を検討していて、
情報システムとして日本のセブンイレブンが参考になると考えたらしい。
「日本語で話してください、通訳しますから」と言われたが、私はホワイトボードには英語で書き、
日本語と英語を交えながら話し始めたが、どうも聴衆は英語が理解できるように感じ、途中から英語で話すと、
通訳は単なる聞き手に回った。
国営企業の幹部はみな優秀で英語は堪能、仕事でも英語を使っているのではないかと推測した。
講演が終わり、偉い人がやってきて英語で会話をしたが、その二日後ぐらいに、
私にアドバイザーをやって欲しいと連絡が来た。
英語を勉強し続けることのプラスを具体的に教えてくれる人はなかなかおらず、
つまり、英語をやらない理由として、プラス面を強調した情報にはなかなか出会えない。
日本人は、自分が得た、自分が知っているプラス面を強調すると、「なんか偉そうだ」みたいに受け止める人が多く、
なかなかプラス情報を手に入れることが難しい。
一方、日本人はマイナス面を発見することが上手で、だから、外国で発明されたものや技術を改善することに長けている。
日本で発明される機械・製品・サービスなどが決して多くはないが、しかし日本で改善され、
世界最高レベルの品質を誇るものが多い理由の一つがこれではないか。
何かを「やるか・やらないか」を考えるとき、やった場合に得られるプラスを大きく考えることができる人、
日本人には少ないが、そういう人が何かを成し遂げるものだ。
過去の創業者や経営者で、頭に浮かぶ人のことを考えてみて欲しい。
冒頭の選挙の話に戻る。
ネット選挙には確かにマイナスが大きい。
しかし今の日本の低い投票率を考えると、ネットの活用で投票率を上げることができるのではないだろうか。
ネットなら便利というだけではない。
候補者の政策をネット上で解説する人が現れたり、複数の候補者の政策を比較するサイトができたり、
有権者がそれに意見を述べたり、つまり、選挙がネット上で盛り上がることが演出できれば、
世界の中でも低い投票率に悩む日本にとって、ここで得られるプラスは大きい。
つまり、マイナスも確かに大きいが、それを上回るプラスが期待できるならば、挑戦する価値はあるのではなだろうか。
若いみなさんの意見を聞きたい。
以上

<プロフィール>
東京工業大学理学部数学科卒業。
ITエンジニアとしてコンビニ、アパレル、保険、銀行、人材派遣など様々な業界のシステム開発を手がけ、現在は株式会社クレスコ社外取締役、ユーザー系企業・顧問 情報活用コンサルティング、IT系企業・顧問 事業戦略策定コンサルティングを兼務。「ダメなシステム屋にだまされるな」(2009年日系BP)など、IT関連の著書も多数。
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