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2019. 10. 14
学園長コラム【学園長コラム vol.9】Win - Win - Win
二つの企業A社とB社が戦略的な提携をするとき、支配する側とされる側という関係ではなくて、
両者がいずれも喜んで成功を分かち合う関係を目指そうというのが20世紀の後半に流行した「Win -Winの関係」です。
どちらも勝利を、という意味が込められている。
今回の事例は三者が成功を分かち合う、言わば「Win – Win – Winの関係」という事例。
場所は米国サンフランシスコ。
ITをはじめとする知的労働者が多数いる大都市だ。
月曜夜の居酒屋はすいている。月曜から飲もうという客は少ないからだ。
同時に絵画の先生は平日の夜は暇だ。
居酒屋でカクテルでも飲みながら、美術学習を楽しむなんでどうだろう、というのが発想のきっかけだった。
絵画あるいは美術の先生とは、子供向けや高齢者向けを中心とした先生で、
仕事はもっぱら昼間であり、また、高給取りではなさそうな人たちだ。
ITやインターネットとはほぼ無関係な生活を送ってきた人たちでもある。
描画はiPadを使う。実はこの事業はiPadの大流行直後に発案されたものらしい。
海底から海面を見上げた構図で、亀や魚が優雅に泳いでいる。
そのサンプルがサイト上にあり、美術の先生の顔写真も載っている。
ゼロから描画するのではなく、構図を下書きしたものの上に
色をつけていくといったやさしいものに見える。
今晩、街角の居酒屋にて比較的低料金で、
さらに飲みながらトライできるので、ご予約をサイトからどうぞ、というものだ。
この新規事業は、場所と飲み物を提供する居酒屋と、教育サービスを提供する美術教師、
そして集客サイトの運営を担当するIT企業の三者から成っている。
このサイトは実は、集客だけでなく、居酒屋も美術教師もここで募集している。
集客サイトでの予約時点で、顧客にクレジットカードや電子マネーで決済を促せば、
その収入を、居酒屋の場所提供代金、美術教師の授業料、そしてサイトの運営費用の
3つに分けることができ、三者間の精算も済んでしまう。
あとは居酒屋で顧客が注文した飲み物の代金だけとなるが、これは居酒屋の通常業務に他ならない。
この事業が当たれば三者がWin – Win – Winの関係となる。
ふつう仲介業と呼ぶ業態は、買い手と売り手を結ぶものだが、
このケースは、居酒屋と美術教師という結びつきにくい二つの売り手と、
顧客という買い手をITで仲介したものであり、ITならではの力を発揮した画期的なアイディアと言えるだろう。
そしてもう一点。通常のWin -Winの関係は、成功すれば両者ともに勝利だが、
そうでなければ両者ともに敗北となる。
ところがこのケースでは、集客力がなかった場合、
居酒屋も美術教師も「せっかく空けていた時間が無駄になった」程度の損害であり、
一方、サイトを構築して運営しているIT企業はモトがとれなくて大赤字だ。
つまりリターンは三者で平等に分けるが、リスクはIT事業者が大半を担っている。
これでうまくいかなかったとき、ITの世界ではそれを失敗と呼ばずに経験と呼ぶ。
それこそがIT事業者の強さでもある。
ITカレッジ学園長 佐藤 治夫
<プロフィール>
東京工業大学理学部数学科卒業。
ITエンジニアとしてコンビニ、アパレル、保険、銀行、人材派遣など様々な業界のシステム開発を手がけ、現在は株式会社クレスコ社外取締役、ユーザー系企業・顧問 情報活用コンサルティング、IT系企業・顧問 事業戦略策定コンサルティングを兼務。「ダメなシステム屋にだまされるな」(2009年日系BP)など、IT関連の著書も多数。
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