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2020. 07. 06
学園長コラム【学園長コラム vol.31】倍々ゲーム
高校の生物学で学ぶ細胞分裂。1コの細胞が2コに分裂する。
2コが4コに、4コが8コにという具合に二倍、二倍に増えていくので倍々ゲームと呼ぶことがあるが、
倍々ゲームという名前のゲームは存在しないし、倍々ゲームを直訳した英語もない。
細胞分裂と似ているのが感染症の広がりだ。
いま1000人の感染者がいるとする。
治療や隔離などの医療行為を何もしない場合に、例えば3日間で感染者数が2倍の2000人になると仮定する。
つまり一人の感染者から他の誰か一人に感染するスピードが平均して3日間だというわけだ。
3日で倍だから6日では4倍の4000人、9日で8000人、12日で1万6千人となる。
この感染スピードで1ヶ月つまり30日経つとどうなるか。
2の10乗、つまり1024倍、102万4千人となり、なんと100万人を超える。
このように「倍々ゲームで増える」ときの増加スピードはすごい。
これは、数学の用語を使えば「指数関数的に増える」と表現する。
どこの国も自治体も感染者を発見したら隔離して、医療行為を施す。
このスピードと感染が広がるスピードの競争になるわけだが、
例えばさきほどの例で、感染者発見・隔離のスピードが3日間で1000人であれば、感染者数は増えないし減ることもない。
最初の1000人が2000人になる間に、1000人を発見・隔離するから、いつまでたっても感染者数は1000人のままである。
しかし、3日間で800人だけしか発見・隔離できないとすれば、3日後には1200人に増える。
さらに次の3日間でも800人しか発見できないとすれば、1200の2倍である2400人から800人を引いた1600人、
次は3200 ― 800 = 2400というように増え方はすさまじく、30日後にはなんと10万人を超えてしまう。
つまり、感染症を抑えるためには感染スピード以上の発見・隔離スピードが必要となるわけだが、
PCR検査などで感染者を発見し、隔離する体制はなかなか増強できない。
そうであれば感染スピードの方を下げるしかない。
感染者数が1000人のとき、この1000人が2倍の2000人に増える所要時間を例えば5日間に伸ばすことができれば、
3日間で1000名を発見・隔離するスピードであっても感染者数を減少させることができる。
総理大臣が「接触の8割削減」を要請したのは、感染スピードを小さくするためであった。
一方、もし、感染者数が2000名になってしまった後で、
2倍への所要時間を5日間に伸ばすことができても、感染は広がり続けることになった。
政府が「初動が遅かった」「緊急事態宣言はもっと早く出すべきだった」と批判される理由がここにある。
コンピュータの世界は2進法だから、2の10乗と言われたら1024がすぐ出てくるのが、我々IT技術者だ。
総理大臣が「8割削減」を要請したとき、簡単な数学を使って説明してくれれば、国民はもっと真剣に考えたかもしれない。
政治家といえども、少しは数学を勉強すべきだと思う。
ITカレッジ学園長 佐藤 治夫
<プロフィール>
東京工業大学理学部数学科卒業。
ITエンジニアとしてコンビニ、アパレル、保険、銀行、人材派遣など様々な業界のシステム開発を手がけ、現在は株式会社クレスコ社外取締役、ユーザー系企業・顧問 情報活用コンサルティング、IT系企業・顧問 事業戦略策定コンサルティングを兼務。「ダメなシステム屋にだまされるな」(2009年日系BP)など、IT関連の著書も多数。
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