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"カメレオン声優"関智一の「演じ分け」の極意とは? ヒューマンアカデミー特別講義で声優の奥深さを語る。
"カメレオン声優"関智一の「演じ分け」の極意とは? ヒューマンアカデミー特別講義で声優の奥深さを語る。
2022年7月23日、総合学園ヒューマンアカデミー大阪校で、特別講義「カメレオン声優 関智一の『演じ分け3つの極意』」が開催されました。

ゲストの関智一さんは、「ドラえもん」骨川スネ夫役、「妖怪ウォッチ」ウィスパー役、「ストレンジ・プラス」恒役、「PSYCHO-PASSサイコパス」狡噛慎也役などをはじめ、さまざまなアニメキャラクターの声を担当。洋画、ゲーム、ラジオ、ナレーションでも幅広く活躍中です。

司会進行は同アカデミー声優専攻2年の塚本凛さんと村上広祐さんが務め、大阪校以外の全国各校舎にもオンライン配信されました。


IMGP5545.JPG声優の本質は、きちんと芝居できるかどうか
関さんが声優になったきっかけは、子どもの頃にあります。テレビの登場人物のモノマネを友だちに披露するうちに、「芝居がしたい」と思うように。加えて、中学生くらいまでは声が高かったこともあり、友だちに「声優に向いているんじゃないか」と背中を押され、志すようになりました。

高校生で養成所に通い始めますが、厳しい指導や緊張から芝居への苦手意識が芽生えてしまい、登校拒否に。ところが、最後のつもりで登校したある日、たまたま代理で来ていた先生に初めて褒められ、続けようと改心します。それから4年後、俳協ボイスアクターズスタジオという声優養成所に入り直し、1991年のデビューへと繋がっていきました。

このコロナ禍で、声優の現場に変化はあったのでしょうか。関さんによると、かつてのアフレコ現場は声優20人くらいが集まり、自分の出番の有無にかかわらず、収録の始めから終わりまで参加するのが一般的でした。しかし、コロナ禍になってからは最大3、4人に制限。若手にとって、先輩の芝居に学ぶ機会が減ってしまったとのことです。

ただ、「芝居はあらゆることが学びに繋がるもの。友だち付き合いや街の人との関わりから感じられるものもある。意識をどれだけ高く持てるか、コロナ前からやる人はやっている」と関さんは言います。

近年、歌やダンスが必要とされていることについては、「できなくても、声優に向いていないと思わなくていい」とのこと。声優の活躍の場は広がっていますが、たとえばスーパーの売り場で流れる声や社内のマニュアル動画など、あまり知られていない仕事も多いそうです。歌やダンスはできるに越したことはありませんが、むしろ煌びやかな仕事は一握り。「本質はちゃんと話せて、きちんとお芝居できるか」。そこが肝心なのです。


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声から考えない、「演じ分け」3つの極意
ここからは講義のタイトルでもある「演じ分け3つの極意」について、関さんが参加者へ伝授していきました。

極意①「物語の構成を把握しよう」
台本をもらって、まずやること。それは当たり前のことですが、物語を最初から最後までちゃんと読むことです。時間が許すなら何十回と読みましょう。そして、物語の流れの中で、自分の役はどんな役割なのかを考える。さらに、それぞれの場面の中で、どんな役割なのかを考える。すると、セリフの言い方が明確になってきます。

若い頃にやりがちなのが、自分のセリフの部分だけを考えたり、声の表現ばかりを練習したりすること。そうじゃなくて、全体から見ていくと「演じ方」が決まってきます。同時に、自分に足りないものも分かるので役にアプローチしやすくなり、普段の自分と違う自分が演じられます。「演じ分けが上手」とは、この読み取り方が上手いということなのかもしれません。


極意②「共感力を高めちゃおう」
たとえば、大事件を起こした犯人の役をやることになったとします。犯人はなぜこんな事件を起こしたのか、理解できない部分があると思います。しかし、「理解できない」「私には分からない」で終わってしまったら、その役は演じられません。

もし、友だちから「不倫している」と相談されたとします。「絶対やめたほうがいいよ!」というのは、正しい助言だと思います。でも、「友だちはなんでそうなっちゃったんだろう」というところを考えてみる。これは、肯定するのとは違います。ただ闇雲に否定するんじゃなくて、「自分もそういう立場になったら、そうなってしまう可能性はあるかもしれない」「気持ちは分かる」と思えるかどうか。どんな役であっても、共感がないと演じられません。

ぼくは事件のニュースを見たら、犯人はなんでこういう犯行に及んだのか、どんな背景があったら及んでしまうのか、理由を考えます。友だち付き合いでも同じです。いろんなことを「自分のこと」のように感じられる人は、芝居が上手になりやすいと思います。


極意③「呼吸、身体を意識しよう」
最後はアウトプットの部分です。アフレコには、舞台やドラマのようなセット、衣装などはなくて、あるのは自分の身体だけ。だから役から想像し、身体の使い方を寄せていきます。

感情と呼吸は結び付いています。たとえば、悲しくて泣いてしまうときの呼吸は「ひくひく」「ひっひっひっ」といった感じで、速くて浅い。悲しくないときでも、やってみるとツーンとして涙が出てきそうになり、悲しい気持ちになりやすいです。逆に、怒りを我慢しているときのように、凄くゆっくり「ふー、ふー」と呼吸してみるとイライラしてくるんですよ。

こんなふうに呼吸を寄せていくと、肉体も変わってきます。怒りを我慢していたら、手に力が入るとか。イライラするから、貧乏ゆすりみたいになるとか。泣いていたら、縮こまって肩を丸めるとか。自信があると胸を開くとか。呼吸を寄せて、肉体も近づけていくと、自然とその感情の言葉が出るようになります。口調や話し方も変わります。これをキャラクターに応じてできたら、まさに「カメレオン声優」ですよ!

みなさん、声優って「声から考えているのかな」「いろんな声色を出せるように練習してるのかな」と思うかもしれませんが、声は最後に決まるもの。この「3つの極意」を順番通りにやっていった結果、声の雰囲気がそうなったということなんです。


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すべての実体験が、芝居に生きてくる
講義の後半は、質問コーナー。大阪校と全国の他会場からリアルタイムで受け付けた質問に、関さんが答えてくれました。

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「力強い声を出すにはどうすればいいか」という質問には、「母音を意識してしゃべるのもひとつ」と回答。たとえば「ケ・ボーン」だったとしたら、「エ・オーン」を意識して発声する。関さんが実践すると、確かに力強い声に感じられました。

「演技がクサいと言われる。自然体な演技のコツは」という相談には、文法という視点からアドバイス。「私はあなたをとても愛しています」というセリフがあったとします。状況によって変わってくるとは思いますが、どこを立てて言うかで、聞こえ方も変わってきます。たとえば「『愛しています』を立て過ぎると、過剰な表現になりクサくなることが多い」と関さん。「私」や「とても」を立てると、どう聞こえるのか。演技というのは、文法を研究することでも変えられるようです。

さらに、「レッスンしていくうえでの心掛け」に対しては、「友だちとしっかり向き合い、関係を築いていくことが大事」と回答。「芝居は一人ではできないもの。意見がぶつかることもあるけれど、仲間と協力しなければ作品づくりはできません。だからこそ、普段から友だちと向き合い、友だちを思いやることが大事かなと。恋愛なんかもそうです。人を好きになったらどういう気持ちになるのかとか。告白してOKだったら、振られたら、どういう気持ちになるのかとか。すべての実体験は芝居に生きてきます」。

声優を志望する「年齢」については、「やりたいという気持ちやモチベーションのほうが重要」とエールを送りました。「中途半端にやるのではなく、たとえば3年、4年と決めてガムシャラに取り組んでみるのもいいでしょう。それが、なににおいても成功の近道になると思います」。

約2時間に渡った特別講義。MCの2人と関さんのやりとりも絶妙で、終始和やかな雰囲気で進みました。大先輩の言葉に、参加者は大きな勇気をもらったのではないでしょうか。


関智一さん、ありがとうございました!