NEWS&TOPICSニュース&トピックス

【セミナー】スクウェア・エニックス松田俊孝さん直伝! ファイナルファンタジーの世界の創り方。

  
2022年8月5日、総合学園ヒューマンアカデミー横浜校で、セミナー「スクウェア・エニックスのアーティストが語る ファイナルファンタジーの世界の創り方」が開催されました(全国各校舎にもオンライン配信)。

ゲストは株式会社スクウェア・エニックス クリエイティブ推進部のアーティスト松田俊孝さん。司会進行はライター・編集者の尾形美幸さん(株式会社ボーンデジタル/CG・映像専門誌『CGWORLD』)が務めました。

イベント後半には、在学生のポートフォリオを松田さんが添削。また、本記事の最後では、参加者アンケートで寄せられた質問に対し、松田さんが回答しています。


大切にしたい、アーティストとして心得とは?

松田さんは学生時代、東京藝術大学で油画を専攻。『FINAL FANTASY VII』にファインアートの可能性を感じて、卒業後の1998年にスクウェア(現スクウェア・エニックス)に入社。数々のFINAL FANTASYシリーズに携わり、近年は『ファイナルファンタジートレーディングカードゲーム』『STRANGER OF PARADISE FINAL FANTASY ORIGIN』を手掛けています。セミナーでは、「ファイナルファンタジーの世界の創り方」について、テーマに沿って解説してくれました。

①.jpg
© 2022 KOEI TECMO GAMES/SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. / CHARACTER DESIGN:TETSUYA NOMURA
© 2022 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.


『STRANGER OF PARADISE FINAL FANTASY ORIGIN』では、初代『FINAL FANTASY』の世界観を再構築しました。その制作の初期段階で、作品のイメージを全員で共有するためのコンセプトアートとして「カオス神殿」を描きました。

1987年発売の初代FFで、カオス神殿はドット絵でしか存在していません。それを今の最新技術で、フル3Dで甦らせるとどんなビジュアルになるのか。それぞれの人の心にあるカオス神殿とかけ離れないように意識しながら、自分の中で育んできたイメージを表現することを心掛けました。

②.jpg
© 2022 KOEI TECMO GAMES/SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. / CHARACTER DESIGN:TETSUYA NOMURA
© 2022 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.


主人公ジャックが草原に佇むビジュアルでは、映画『ショーシャンクの空』から得たインスピレーションを反映。また、ハレーションを起こしたような不思議な空間の中に、見慣れた自然物である木を入れることで、より違和感を際立たせています。

③.jpg
© SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
© 2022 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.


同じキャラクターでも、用途によって、絵の中の情報量やタッチは変わってきます。例えば、ゲームのキャラクターデザイン用だと、3Dモデル化されることを踏まえて具体的に描き込む必要がある。一方、トレーディングカード用の場合は、そこで完結するのでラフな感じでもいい。好みはあるけれど、ファインアートにより近い感覚です。

「エスキース」とは、下絵やスケッチを意味する言葉です。あのレオナルド・ダ・ヴィンチでさえ、本番の絵よりも、エスキースのほうが素晴らしいと言われることがあります。最初にバッと感じて描いたものに最大の感動が込められている。本番はある意味、二次制作。だから常にエスキースを見直すことが大切なんです。

絵はリアルだから魅力的とは限りません。なにを表現したいのかを考え、引き算していくこと。キャラクターデザインにおいても、どこを引いて、どこを残すのかをコントロールしましょう。

④.jpg
© 2015-2020 SQUARE ENIX CO., LTD.All Rights Reserved.
© 2022 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.


2015年発売『メビウス ファイナルファンタジー』では、初代FFのラスボスである「カオス」を再構築しました。どんなカオスに作り直すか。発注する側にもいろんな意見や想いがあります。料理に例えると、「和風味のカオスにして」という人もいれば、「カレー味のカオスにして」という人もいる。だからといって、全てを表現すると誰も食べられないものになってしまいます。

自分の中で落とし込んで、調理すること。全員が食べられるように、物として成立させること。オーダーがこうだったからで終わらせるようではよくないです。

ゲーム制作、キャラクターデザインにはいくつもの工程があります。上流でしっかり固めておかないと後々矛盾が生じ、多くのスタッフの手を煩わせることになる。時間もお金も無駄にかかってしまう。だからこそ、後工程の人たちにちゃんとバトンを渡せるように作画しなければなりません。アートには、共通認識を形成し、未来の負荷を軽くする役割もあります。

⑤.jpg
© 2009 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.CHARACTER DESIGN:TETSUYA NOMURA
© 2022 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.


『ファイナルファンタジーXIII』では、「ビルとビルの間を移動するための橋を用意してほしい」というオーダーを受けました。そこで、ありきたりな移動床で終わらせずに、ハングドエッジを自由に飛ぶ飛空艇のような移動橋を提案。コストは約10倍かかりましたが、FFの世界観にも合っているということで実現しました。オーダーをクリアするのは当然で、そこに自分の味付けやアイデアを盛り込んで仕上げること。それがアーティストとしてのノルマです。

なぜ、その人をアサインしたのかという、その人じゃなきゃできないものを出さないと。自分の特徴だったり、アイデンティティだったり。それがあることで、次のオーダーにつながりますし、自分の可能性が広がっていく。自分なりの表現、楽しみ、挑戦を盛り込むのは大事かなと思います。


実践すべき、キャラクターデザインの極意とは?


セミナー後半は、在校生2名が事前に提出したポートフォリオを、松田さんに添削していただきました。

松田さんはまず、黒魔導士の村とビビのCG作品を見て、モノづくりにおける愛情の大切さを強調。「楽しんで作っているとか、大事に思って作っているというのは伝わるもの。愛情を感じる、好感が持てる作品に仕上がっている」と評価しました。その上で、キャラクターの服の生地やバックルなどのディテールについて指摘。「場所によって光沢に強弱を付けたり、シワを表現したり。ディテールをどれだけ詰めていけるかが、キャラクターモデルづくりの差になる」と言います。

石膏をモデルにしたデッサンに対しては、「デザインの目的は描くことではなく、観察眼を鍛えること。鼻や口、顔を描くのではなくて、造形を起こすことを意識するとよりよくなる。それがキャラクターや背景のデザインスキルにつながる」とアドバイスを送りました。

添削の中で松田さんは、キャラクターデザインの本質についても熱く語ってくれました。「まさにキャラクターをデザインすることが必要となる。ウマいかヘタいかより、デザインしてるかしてないか。好みはあっても、正解・不正解はない。その人がどれだけこだわりを持って、自分にしかできないデザインを提示できているか」、それが重要だと話します。

さらに、キャラクターづくりのコツも伝授。最初にこだわるべきは、「シルエットをどう特徴づけるか」。髪型、頭の形、顔の輪郭、体型など、シルエットの段階で違いがないと、そのあとどれだけ描き込んでも特徴は出にくくなります。


デザインや業界の疑問に、松田さんが回答!
ここからは、イベント終了後の参加者アンケートから質問をいくつかピックアップ。松田さんからメールでいただいた回答と併せてご紹介します。

Q.デザインするとき、なにかを参考にする?
A.城を描くのに城の資料を探すのではなく、全く別のものからインスピレーションを受けたりします。FFのスチームパンクの城だと原子炉とか。そうすることで、城だけど普通のデザインではない物が生まれたりします。

Q.他分野の作品を見ることも重要?
A.美術館や展覧会で気になるものがあれば行くようにしています。実物から受ける衝撃やインスピレーションはとても大事です。どこにヒントが隠されているか分かりません。

Q.発想力は経験に左右される?
A.経験は大事だと思います。でもその経験とは絵に限らず、読書であったり、スポーツであったり、独自の趣味であったり千差万別です。それが個性になるし、もちろん今からでも補えるもの。開いてないだけで、どんな人にも引き出しはたくさんあるはずです。

Q.デザインが採用されるまで何回くらいボツが出る?
A.ボツなしのときもあれば、3~5回のボツが出ることも。ボツの総数でいえば数百かも!

Q.よいゲームデザイナーとは?
A.ゲームが好きなこと。視野が広いこと。人の話を聞けて、自分の価値観をしっかり持っている人です。

Q.30歳から未経験でゲーム業界に飛び込むのは非現実的?
A.なにをやるにしても過去の経験ではなく、今なにができるかです。若くてもサボれば成長しません。退化すらします。真剣かつ柔軟に取り組むことが大事です。

Q.最適な絵の勉強法とは?
A.デッサン力を高めること、模写をしてプロの技を自分の中に落とし込むことです。目標を持って、絵を描いて描いて描きまくりましょう。

Q.毎日欠かさず描いていますが、成長している実感がない。
A.毎日描くことはとても大変で、素晴らしいことだと思います。成長を感じないのは目が肥えてきているのが原因かもしれません。この目を鍛えることが重要なんです。スランプは成長の証でもあります。これからも頑張ってください。


松田俊孝さん、ありがとうございました!

©2024 Human Academy Co., Ltd. All Rights Reserved.

Topに戻るTop