声優・俳優
声優を続けることの難しさと新しい時代の目指し方
生存戦略
昨今では、全国に30万人以上と言われる声優志望者がいるように、毎年多くの人がその限られたポジションを狙って夢を追いかけています。しかし、昔に比べて声優になることがより一層難しくなったとも言われ、今では当たり前になった「アイドル声優」や「アーティスト声優」も昔にはなかったもので、時代とともに少しずつ変化しているのが声優像です。数年後、数十年後に社会で活躍するみなさんは、"従来の方法"にとらわれず、今後の変化を読み取ることで新しいルートや活動方法が見つかるかもしれません。そこで、今回は声優業界の現状とこれからの時代に向けたアプローチ方法を紹介していきます。
声優業界の現状
みなさんもこれまでに「声優は目指さない方がいい」という意見を何度も見聞きしたことことと思いますが、その根拠や現状を『AKIRA』金田正太郎を演じた岩田光央さんや『メタルギアソリッド(シリーズ)』ソリッド・スネーク『ONE PIECE』黒ひげ役で有名な大塚明夫さんといったプロ声優の方々も述べています。さらにWebサイト「声優データベース」によれば、登録者数は約4000名、総数としては約1万人と言われています。
確かに僕が声優の仕事を始めた30年前に比べれば、仕事の幅も機会も広がっています。とはいえ、それでも必要とされる声優の数は、全体として300人程度と言われているようです。
出典:『声優道 死ぬまで「声」で食う極意』p.49 著:岩田光央 出版:中公新書ラクレ
こんなに商売として成り立っていないものを、安易に将来の「職業」として選ぶのは危険です。即刻やめたほうがいい。実家が裕福でいくらでもすねがかじれるとか、声優が駄目でも実家の稼業を継げばいいとか、いつでもしっかりした勤め人のお嫁さんになれる身分だという人間でない限り、近づかないのが正解です。
出典: 東洋経済オンライン「声優の大多数が仕事にあぶれる理由」(https://toyokeizai.net/articles/-/321702)
こうした意見は他にもたくさんありますが、それでも毎年多くの人が目指すのは、見聞きするだけでは実感できないというのが大きな理由だと感じます。そして、声優学校などの広告・宣伝など通して「自分の可能性を試したい」「好きなことをやりたい」という思いが強くなることは仕方のないことかもしれません。昔の僕もそうでしたが、根拠のない自信や可能性から夢にトライしてみたいという強い思いがありました。その結果、たくさんの経験をして挫折したこともあれば、ここでしか得られない喜びもありました。学校や養成所に通っている頃は、日々悩みながらのトレーニンング。所属してからは、常に就活というような感覚が近いのかもしれません。
声優飽和時代
上記のように、業界は極めて少ない椅子を大量の声優が取り合う時代です。
もはや、ただ努力すればなれるというものでもなく、そこにはセンスやルックス、ときには縁やタイミングといった運要素も重なることで売れる人も少なくないと思います。そして、その椅子に座れなかった人たちは、アルバイトを続けてでもチャンスを掴む努力をしている人がほとんどです。
- ●仕事の数<声優の数
- ●東京にプロダクションが集中
- ●多くのタレントを抱えてもプロダクションのデメリットが少ない
- ●福利厚生や生活保障がない
- ●定年がない
また、声優には定年退職という決まりがありません。働き続けられるという意味では良いことですが、業界全体で見ると循環しにくい構造になっています。こうしたことから、業界内で活動し続けること自体が非常に覚悟のいることであり、今後はさらに困難になっていく可能性があります。
時代の変化
昨今では、例の流行り病によって学び方や働き方が大きく変化しました。収録スタジオでは、一定の距離を取りパーテーションで仕切ることはもちろん、タレントの入り時間をずらなどした分散収録が行われていますし、声優学校でもリモート授業や少人数制レッスンなど様々な取り組みが浸透しています。そして、これらの中には、人々の意識変化やオンライン文化の拡充に伴って、今後普及していくであろう学習方法やワークスタイルも確実に生まれてくると思います。
もちろん、これらは一時的な感染対策や一過性のものもあるかもしれませんが、みなさんが社会を担うであろう近い将来に備えて考えておくことはとても大切なことだと思います。以下では、こうした業界と現状と時代の変化を踏まえながら、声優を目指す人に向けたこれからの学び方や働き方の指針になるような内容を紹介していきます。
新しい時代の目指し方
学び方
前述したように、今では個人がネットで様々な情報を得ることができますし、教育現場でもオンラインを活用するところはかなり多くなっています。例えば、こうしたテキスト記事やネットニュース、YouTubeなどの動画コンテンツ、そしてリモート授業やオンライン説明会などですね。正直、僕が目指しはじめたころに比べると有益な情報はかなり増えていて、経験や知識がなければ取捨選択が難しいと感じることも結構あります。そして、これまでは高い学費を払ってでも学校や養成所へ通うことが大きなアドバンテージでしたが、それも無料コンテンツの充実によって少し薄まった印象です。だからこそ思うのは、これからは自分で考えて行動できる人がより成果を出しやすい時代ということです。これは、みなさんが声優として活動していく際もかなり大切な要素です。地方に住んでいようが、経済的に困っていようが、インターネットさえ繋がればたくさんの教材を得ることができますし、逆に、専門学校などを卒業してもそれなりのことしか身についていない人もたくさん見てきました。やる気のある人はどんどん伸びていくし、やる気のない人はお金と時間を費やして終わることになります。
働き方
声優の働き方や声優像も少しずつ変化していくかもしれません。世間では、リモートワークやオンラインでの仕事のやりとりが増えたことに伴い、拠点を地方や郊外に移す人も少なくないですね。最近では、ある芸能事務所も郊外へオフィスを移すことが話題になっていました。こうしたところに住むメリットは、生活費や住居費が抑えられ、落ち着いた環境で仕事や生活に集中できることにあり、地方によっては声の人材が足りないところもありますし、昨今では在宅で声の仕事をする人も増えています。まだまだ、仕事の数も事務所も都内に集中していますが、今後は身近な都市やネット上で声優活動をする人もどんどん増えてくるかもしれません。
大塚明夫さんも指摘されていたように、声優は基本的に仕事を受ける側の立場であり、日々どれだけ努力したとしてもそれが結果に結びつくわけではありません。しかし、今ではSNSやYouTubeなど、自分で創作し発信できるプラットフォームはたくさんあって収益や人気を獲得することもできたりします。もちろん、所属していれば事務所の意向もありますし、個々のネットリテラシーも求められますが、活動の一環として個人がメディアを持つことは欠かせなくなってきているのではないでしょうか。
まとめ
今では当たり前になった「YouTuber」や「VTuber」ですが、これらはひと昔前にはなかった仕事であり、声優という職業も時代に応じて少しずつ形を変えていくものだと思います。そして、声優に求められることが非常に多くなった反面、インターネットを通じて学びや働き方もたくさんの選択肢が用意されていますね。だからこそ、一人一人が自分なりの方法で声優像を築いていくことが大切だと思っています。
ライター:ゆうき