
パフォーミングアーツ
「声優になりたい」ではなく、「どんな声優になりたいか」を具体的にイメージすること
熊谷健太郎
- 職業:
- 声優
- 所属:
- 東京俳優生活協同組合
現在の仕事内容について
現在の活動内容について教えてください。
最近ですと、ありがたいことにメインキャストと呼ばれる役にも出演させていただけるようにもなってきました。活動内容の中心はアニメですが、洋画の吹き替えにも出演しています。また、ラジオについても、先輩の声優さんと一緒にパーソナリティを務めています。
『アイドルマスター SideM』では、大勢のお客さまを前に舞台に立たれたと聞きました。
そうですね。『アイドルマスター SideM』はゲームから様々なメディアミックスへと展開されたコンテンツで、アリーナやドームなど何万人ものお客さまを前にステージにも立たせていただきました。その様な機会をいただけるキャラクターや作品には感謝しかありません。
アニメのメインキャストというと、ベテランの方が担当するイメージを持っていましたが、熊谷さんのような若手世代も活躍していますね。最近の声優業界のトレンドなどあれば教えてください。
確かに、私よりも年齢・キャリアの浅い声優さんがメインキャストを担うケースも増えており、なかには10代でデビューする声優さんも。ナチュラルなお芝居が求められる作品も増えているように思います。その上で私としては、自分のストロングポイントを明確にすることが大切だと考えています。オーディションで上の世代の先輩方と同じ役を競う場面も増えているなかで、自分の強みを持ちたいと考えています。
声優を目指したきっかけは、一本のミュージックビデオ
そもそも、熊谷さんが声優という職業を意識したのはいつですか? 子どもの頃からアニメやゲームが好きだったのでしょうか?
代表的なタイトルのアニメには触れてきましたが、出身が沖縄ということもあり、都心に比べるとテレビのチャンネル数が少なかったので、幅広くアニメに触れられる環境ではなかったと思います。また、中学時代はサッカー部の活動に熱中していたので、そこまでアニメにのめり込んでいたわけではありませんでした。
声優という職業に触れるきっかけのようなものがあったのでしょうか?
中学1、2年生の時だったと思いますが、たまたま宮野真守さんのミュージックビデオを見かけて、「このアーティストさんかっこいい!」と思ったことが始まりです。当時は、その方が声優さんであることも知りませんでしたし、そもそも声優という職業があることも知りませんでした。その後、偶然見かけたアニメのクレジットに宮野真守さんのお名前があるのを発見し、声優という職業があることを知りました。さらに調べてみると、いろんな作品に出演されていて、「この役もあの役も同じ人がやっている」ということに衝撃を受けました。
どちらかというと、将来の夢が変わりやすい子どもだったと思います。学校の先生、サッカー選手、自動車整備士......。なりたい職業はあっても、その熱意が長続きしないなかで、声優になれば、作品を通していろんな職業や人生を経験できると考えたのが、声優を目指す最初の入口でした。
初めて芽生えた「声優になりたい」という想いは、高校に進学してもあったのでしょうか?
はい。高校生になっても、その想いは消えませんでした。でも、「声優になるには東京に行かなければ」とも考えていて、その上京費用を稼ぐために、放課後はアルバイトに時間を割いていました。
![]()
ヒューマンアカデミーの高校生オーディションに参加して、準グランプリを獲得
その後、ヒューマンアカデミー那覇校との出会いがあるのですね!
ヒューマンアカデミー那覇校で、高校生を対象にしたオーディションイベントが開催されていることを知り、「何かを得られるかもしれない」と考えてオーディションに参加したところ、結果は準グランプリを獲得。ヒューマンアカデミーの「職人塾」(高校1〜2年生を対象とした早期専門学習)の学費が無料になるという特典があったため、アルバイトをしながら月1回のレッスンを受けていました。
「職人塾」に通っていた流れで、ヒューマンアカデミーを選んだのでしょうか?
そうですね。上京して声優の専門学校に通うという選択肢もありましたが、「職人塾」で教わった恩師の存在が大きかったですね。ヒューマンアカデミー那覇校に通うことで、その方から直接レッスンを受けられる点に魅力を感じて入学しました。入学後も先生主導の選抜クラスに入って、卒業までずっとレッスンをつけていただきました。
ヒューマンアカデミーの学生生活において、印象に残っている出来事などあれば教えてください。
入学当初は根拠なく自信を持っていましたが、いざアフレコの実習に参加し自分の演技を振り返ってみると、全然できていないことに気づかされました。滑舌は甘いですし、セリフも口先だけで、自分自身のできなさ加減にショックを受けました。でも、「自分は下手」と気づけたことで、講義もより積極的に受講するようになったと思います。
在学中はどのようなことを学びましたか?
「感情の解放」や「身体表現」などの基礎力を学べたことは大きかったです。また、沖縄出身ということもあって、方言や訛りを治すのに苦労しました。座学でもアクセント記号をつける練習をしたり、標準語を聞いたりすることで、少しずつ話せるようになっていきました。
インストアライブの経験、吹き替えの収録。
在学中に学んだことが今に生きている
在学中に学んだことが、今の仕事に役立っていると感じることはありますか?
ショッピングモールでインストアライブをしたことですね。一般のお客さまの前でパフォーマンスをするのは初めての経験で、私たちのことを知っている人はいないと言っても、とても緊張しました。昔から歌うのが苦手で、事務所に所属してからも、「歌には縁がないだろうな」と思っていましたが、まさか自分がドームで歌う日が来るなんて......(笑)。この時の経験があったからこそだと思います。
また、吹き替えの収録も役に立っています。アニメの収録では、映像を見ながら無音の状態に声を入れていきますが、吹き替えの収録では、海外の俳優さんのセリフを聞きながら声を当てていきます。これが医療ドラマともなると常に言葉が飛び交い、前の人のセリフが終わったら素早く入れ替わらなければなりません。当時のレッスンでは、有線のイヤホンを複数人で回しながら使っていたこともあって、「マイクワーク」も複雑になりがちでした。在学中から実践的な環境で学べたことで、実際の現場でもスムーズに収録に入ることができました。
業界の第一線で活躍するプロの声優のレッスンを受けられる
これから進路を選択する高校生に向けて、ヒューマンアカデミーの良いところを挙げるとしたら?
校舎によって特徴は異なると思いますが、学生同士でユニットを組んでライブをやったり、学んだことの集大成として卒業公演を開催したりと、お客さまの前でパフォーマンスをする環境はヒューマンアカデミーの魅力だと思います。
業界の第一線で活躍している声優さんからレッスンを受けられる点も、ヒューマンアカデミーの魅力です。私自身も、在学中に教わった講師とは現在も交流を持っており、仕事で困った時や悩んだ時に相談しています。オープンキャンパスなどで卒業生が来校する機会も多く、現役の声優さんから、声優として活躍し続けるためのポイントや、オーディションの心構えなど、貴重な話を聞くことができます。進学先を選ぶ際は、積極的にオープンキャンパスに参加して、各校の強みを比べることで良い選択ができると思います。
ヒューマンアカデミーが結んでくれた、事務所との「縁」
熊谷さんはヒューマンアカデミー卒業後にオーディションを受けられたのでしたね。どのような気持ちでオーディションに臨みましたか?
はい。養成所に通う資金を貯めるために、卒業後1年間はアルバイトに専念していました。気持ちとしては、正直焦っていましたね。というのも、学内オーディションで事務所に所属した方と比べると、1年間のブランクがありましたし、自分がどこの事務所に合っているかもわからなかったからです。
そこで、ヒューマンアカデミーで教わった先生に相談して、俳協の養成所であれば結果が出るのも早いし、養成所のシステム的にも向いているとアドバイスをいただき、オーディションに参加しました。そのオーディションに合格して今に至るわけですが、ヒューマンアカデミーが結んでくれた「縁」だったと思います。
熊谷さんにとって、恩師とはどのような存在なのでしょうか?
間違いなく、自分の一歩を後押ししてくれた存在です。在学中は愛情を持って厳しく指導いただきましたし、声優として活動する私の姿を楽しみにしていただいています。以前ほど頻繁に連絡を取り合うことは少なくなりましたが、作品を通して自分の頑張りを伝えたいと考えています。
オーディションではうまく演じるよりも、一生懸命演じることを意識
オーディションに臨む上で、準備していたことや意識していたことはありますか?
やはり地元を離れて上京していましたし、経済的に限界もあるので、俳協のオーディションがダメだったら沖縄に帰ろうと考えていました。オーディションでは、台本を持つ手が震えるほど緊張していましたが、「うまく演じる」よりも「一生懸命演じる」という意識で臨んだように思います。ある意味、ヒューマンアカデミーに入学した時に感じた「自分は下手」だという想いと同じように、その時の自分にできることを全力で表現しました。
あえて興味のないジャンルに飛び込んで刺激を得る
声優を目指す高校生に向けて、在学中にしておいた方が良いことがあれば教えてください。
興味のないジャンルも含めて、色んなエンタメに触れること。もちろん好きなジャンルを軸にするのは良いことですが、表現の世界で活躍するなら、ドラマ、映画、舞台、ライブなど違ったジャンルからヒントを得たり、いつもとは違う刺激を受けたりすると、表現の引き出しが増えると思います。
例えばサッカー経験がある人は、サッカーを題材にしたアニメのキャラクターを演じる際に、選手のメンタル面を上手に表現できますし、アイドル好きな人は、アイドルを題材にしたアニメのキャラクターを演じる際に、アイルドルらしい表現ができるでしょう。アニメのテーマが多様化しているからこそ、色んなジャンルを知っておいて損することはないでしょう。
声優を目指す方のなかには、熊谷さんと同じように、地方出身の方もいると思います。先ほど方言や訛りについてお話しいただきましたが、声優を目指す上では標準語は必須なのでしょうか?
その言葉や音が日常にある場所で生活していると、方言や訛りに対して違和感を抱くのは難しいと思いますが、標準語を使わないと仕事にならないというのが正直なところです。ただ、方言や訛りが武器になる可能性もあると思います。私は沖縄出身ですが、沖縄出身のキャラクターを演じる際や、ラジオなどでパーソナルな部分を見せる際には、個性を出せると思います。その意味では、標準語は必須ですが、同時に方言や訛りはなくしてほしくないです。
現実世界にはない、色んな人の人生を経験できるというやりがい
声優という仕事のやりがいや、大変なことがあれば教えてください。
声優という仕事のやりがいは、出会った作品・役を通して、色んな人の人生を経験できるところ。現実の世界において、モンスターを料理して味わいながらダンジョンを攻略するという経験はできませんよね。また、私自身はプロサッカー選手になるという夢を早々にあきらめましたが、作品を通じてより高いレベルでプレイできたり、作品のなかに生きるキャラクターの人生を体験できたりするのはとても刺激的です。
声優という仕事は、新人やベテラン関係なく、オーディションを受けて役を獲得するのが基本です。もちろん、オファーをいただくこともありますが、いわゆる作品のメインキャラクターというのは、オーディションを行うケースがほとんど。どんなに思い入れのある作品・キャラクターであっても、オーディションで落ちることもあるシビアな世界です。だからこそ、人と人との縁のなかで、声を任せていただけるキャラクターに出会えた時は何にも代え難い喜びがあります。
今後の目標や夢について教えてください
アニメにもっと出たいという想いは当然ありますし、吹き替えにおいても作品や表現の幅を広げて、これまで以上にセリフを話す時間を多くするというのが今後の目標です。そのためには、オーディションに参加して「熊谷健太郎を使いたい」と思っていただける方を増やせるよう努力しなければなりません。夢は、生涯現役の声優として活躍すること。50代の先輩方が高校生役を演じているのを見ていると、こういった部分も声優という仕事の面白さだと改めて実感します。見た目や年齢に左右されない仕事でもあるので、生涯声優として活動できたら嬉しいです。
どんな声優になりたいのか、何をしたいのかをイメージすること
最後に、これから声優を目指す方へメッセージをいただけますか?
「声優になりたい」と考えている人も多いと思いますが、ひと言で「声優」といっても、アニメ、洋画、ゲーム、歌、舞台、ナレーションなど活躍するフィールドは多様化しています。だからこそ、声優になって何をしたいのか、声優としてどこを目指しているのか、ビジョンを明確にしてほしいです。そうすることで、在学中に学ぶ内容も明確になりますし、オーディションを受ける時にその分野に強い事務所を選ぶこともできます。漠然と「声優になりたい」ではなく、どういう声優になりたいのか、声優になって何をしたいのかをイメージすることで、進路選択はもちろん、その後の学び方が大きく変わると思います。
熊谷健太郎
- 職業:
- 声優
- 所属:
- 東京俳優生活協同組合